イスラエルの外交・安全保障政策の最重要の課題は、イランであるということに、表向きはなっている。イスラエルの外交官も、専門家も、口を揃えて、イランの脅威について同じようなことを言う。

しかし、イスラエルの専門家、特に国家の長期的な戦略を考える立場の人たちの発言、あるいはその行動を仔細に眺めていると、イランよりも、トルコの脅威の方を、長期的にはより深刻に受け止めているようである。

それも当然である。イランは確かにイスラエルに敵対的だが、イスラエルを直接脅かす手段をほとんど持たない。核開発は国際政治の最大の関心事として監視され、厳重に封じ込められている。もしイランがなんらかの形で核開発を進めたとしても、イスラエルはその気になれば軍事的な手段によりそれを阻止する能力を保有する。何よりも、米国がイランと根本的な体制間の敵対関係にあり、イランのイスラーム革命体制が続く限りは、イランは米国によって、軍事的にも経済的にも封じ込められ続ける見通しである。

そもそもイランはイスラエルから遠い。イランが歴史上、イスラエル・パレスチナの地を支配下に置いたことがあるだろうか。極めて例外的な短い期間しかない。それこそキュロス大王が新バビロニアのネブカドネザル大王による捕囚からユダヤ人を解放した紀元前6世紀のような、神話的時代に遡らなければならない(その場合もペルシア人はユダヤ人の救済者だった)。

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