8月13日にトランプ大統領によって発表され、9月15日にホワイトハウスで調印式が行われる予定の、イスラエル・UAE国交正常化合意だが、そもそもこの合意によって外交的には何が合意されるのだろうか。

「中東和平」という単語は、しばしば「パレスチナ問題」とほぼ同一であるかのように用いられる。しかし現在はこの語法は実態を反映していない。「中東」の紛争は多様化し、拡散し、その和平の課題と試みも複数が同時並行して存在しており、パレスチナ問題は「そのうちの1つ」となっている。

UAEのイスラエルとの国交正常化は、実現すれば「パレスチナ問題の解決なしに、イスラエルと和平を行う」という趣旨のものであり、それによってパレスチナ問題は解決しない。しかしパレスチナ問題が解決しないことをもってUAEを非難することができるのか、またこれが「和平の名に値しない」と言えるのか。パレスチナ人が、アラブ民族主義といった観点から、UAEの裏切りを非難することはできるだろう。しかし少なくとも外部の第三者には、そのような根拠は乏しい。

言えることは、UAEの成長と世代交代により、パレスチナ問題への関心が薄れ、中東全体の政治的な、また社会の意識の変化により、パレスチナ問題の解決を放棄してイスラエルとの和平に踏み切ることの政治的なリスクやコストが、極めて小さなものに、UAEにとっては見えている、ということである。

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