「アブラハム合意」は継承されるのか

執筆者:池内恵2021年4月25日

「中東通信」欄は元来は、ごく短い文章でその時々の中東情勢の断面・断片を切り取るアフォリズム(警句)のような、最近でいえばTwitterの呟きのようなものと考えて設立してもらった欄なのだが、書くとなるとつい力を入れて本格的になってしまう。

暫くはなるべく簡略に。

メモしておかなければならないことは、トランプ政権が持ち込んだ特有の中東政策は、バイデン政権とその後に継承されるのか、ということ。

トランプ政権の中東政策のうち、(1)トランプ政権に特有のものと、(2)共和党政権であればおおよそ共通しているものと、(3)共和党政権でも民主党政権でも共通する、オバマ政権からトランプ政権を経てバイデン政権で共有されているものの選り分けをしておく必要がある。

最初に(2)から見ていくと、対イラン政策がこれに当たる。共和党政権では、対イラン政策が対決と圧力の方面に傾きがちであり、究極的には政権転覆を志向するものになりがちである。それを最も極端な方向に進めたのがトランプ政権の対イラン「最大限の圧力」政策だったが、結局のところ、圧力をかけてイランが反発してきた時に、更なる圧力で屈服させる手段や方策をトランプ政権は示さなかった。むしろ矢面に立たされたサウジアラビアやUAEの梯子を外す形にすらなった。ということはやはり、イラン政策は結局はトランプ政権に特有のものは打ち出さなかったといえよう。レトリックと掲げた要求は過大だったが、それを実現する意思と能力がいずれも不確かだった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。