地図中の青いラインが、紅海と地中海を結ぶ石油パイプライン。「European Asia Pipeline Company」HPより
 
 

 筆者がロンドンでオイルトレーダーの仲間入りをした1980年代半ば、彼らは北西欧州(North West Europe=NWE)とアジアの原油市場の違いを次のように称していた。

「我々はキャデラックに乗っているが、君たちはトヨタで十分なんだよね」

 自動車産業の絵図が大きく変わってしまった現在では、理解しがたい比喩かもしれない。

 要は、当時のNWE市場は軽質、高価なナイジェリアやリビア原油を多用しているが、アジア市場は中重質、安価な中東原油で十分だ、という意味だった。

 産油地と消費地の距離の遠近という要因に加え、両地域の需要構造と精製設備の違いが背景にはあった。

 おそらくこの基本構造は、今も不変ではなかろうか。

 イスラエルとの国交正常化の動きで注目を集めているUAE(アラブ首長国連邦)で産出されている原油は、中東では相対的に軽質、高価なものが多い。だが、NWE市場には同類のナイジェリアやリビア、さらには北海原油などがあるので、UAE原油のニーズはほとんどない。距離が遠い分、輸送運賃が高くなるので、FOB(積地本船渡し)価格は値引きしないと競争力がない。

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