パティさんの追悼集会にはフランス全土から人々が集まった。「私はサミュエル」とのプラカードも多く掲げられた(C)AFP=時事
 

 フランスは難しい。

 テレビの報道番組でリポートを制作・放送するのも、文章を執筆するのも、フランスの歴史を十分に踏まえないと、表層的になってしまいがちだ。イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を描く「表現の自由」をめぐって凶悪な事件が相次ぐ現状も、フランスの歴史抜きには理解できない。もちろん、テロや暴力行為は決して許されない。一方で、テロを指弾してフランス流の「表現の自由」を絶対視しても、流血に歯止めをかけることにつながらないように思える。

 2020年10月16日、パリ近郊の中学校に勤めていた男性教師サミュエル・パティさんが首を切断されるという凄惨な事件が起きた。パティさんは、「表現の自由」について教える授業の中でムハンマドの風刺画を教材として扱っていた。警察に射殺された容疑者は18歳、ロシア生まれのチェチェン人。6歳の時に家族とフランスに移り住み、難民認定を受けていたという。彼はツイッター上でエマニュエル・マクロン大統領を「不信心者」となじり、「ムハンマドを貶めたおまえの犬を始末した」と書き込んでいた。

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