コロナで変わるベトナム「ワニ」の対中取引環境

執筆者:荒神衣美2020年12月20日
ホーチミン市のテーマパークSuoi Tienにて(2011年)。 同テーマパークではおよそ2万5000匹のワニが飼育されており、来訪者にワニ釣りなどの観光サービスを提供する一方で、ワニ農家への稚ワニの販売も行っている。(筆者撮影)


 中国はベトナム農産品の主要な輸出先である。国境貿易を中心に拡大してきた対中農産品輸出は、ベトナムの農産品輸出総額の30%弱を占めている。新型コロナの感染拡大防止策として2020年1月末からベトナム・中国国境ゲートが閉鎖されたことは、ベトナム農産品輸出に少なからず打撃を与えた。青果品、水産品、コショウ、ゴムなど数々の品目で、2020年第1四半期の輸出額は前年同期と比べて大幅に減少した。

 本稿で取り上げるワニも、コロナ禍で対中輸出が顕著に減少したことにより、行き場を失った「生もの」のひとつである。ワニ養殖は、世界的にみると、装飾品向けの皮革の原料となる皮の需要が高まった1960年代後半ごろから、アメリカ南部やアフリカ南部で広まり、その後、養殖業者が増えるにつれて、皮だけでなく肉の販売も拡大していった。とくに中国では、ワニ肉が抗がん作用を持つ薬用食品と考えられていることもあり、好んで食されてきたという。ベトナムにおけるワニ養殖は、資料の制約から断言はできないものの、農業発展一般の動向に鑑みると、2000年代に入って拡大してきたものと推察される。以下では、ベトナムのワニ生産・輸出概況とコロナ禍による農家の苦境について、現地新聞報道等に基づき概観してみたい。

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