米中冷戦が引き起こしたミャンマークーデター

東南アジアで強権ドミノの懸念

執筆者:後藤康浩2021年2月3日

ミャンマーは中国にとってインド洋への出口。地政学上の存在感は大きい(C)AFP=時事

 

 ミャンマーで2月1日朝、国軍が起こしたアウンサンスーチー政権打倒のクーデターは単なる軍政への“先祖返り”とみるべきではない。軍政が世界からの批判、制裁を恐れずに強権的な行動に出たのは、米中冷戦が深刻化するなかで、中国陣営に加われば軍政国家でも十分生き残れるという判断があるからだ。米欧日などの制裁を受け、貿易や投資を絶たれても、中国主導の「一帯一路」沿線国家として成長できるとの読みだ。逆にミャンマー国軍の動きこそ、米中冷戦が東南アジアに構造として定着し始めたことを映し出している。タイのプラユット軍政などミャンマーに続き、中国陣営に踏み込む国が出てくる可能性は高い。アジアで「民主主義否定のドミノ」が始まった。

 ミャンマーでは昨年11月の総選挙で国民民主連盟(NLD)が圧勝し、アウンサンスーチー政権誕生前に制定された憲法によって議会や閣僚ポストに“指定席”を確保する国軍への批判が強まっていた。今回、クーデターで全権を掌握したミンアウンフライン国軍総司令官らが、民主化が国軍の政治的影響力を大幅に削ぐ新段階に進むことを恐れていたのは確かだ。ただ、2011年以降の民主化の流れに表だって逆らうことは、国際世論の支持や外国企業の投資を必要とするミャンマーにとっては取れない選択だった。

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