群馬県の山村、上野村は私の「村の家」がある里である。半世紀ほど前にこの村を訪れ、それからは釣りをしながら長期滞在をするようになった。村を貫くように神流川が流れ、そこはヤマメやイワナの暮らす源流の川である。

 次第に村人とのつき合いも広がり、私はこの村で暮らしたくなった。村人から古い民家や森、畑を譲ってもらい、ここが自分の里になった。仕事の都合もあって村と東京を行き来する生活ではあるが、気分的には上野村が私の本拠地である。ここは人口1200人ほどの村で、私の家は数軒だけの小さな集落のなかにある。周囲を山が包み、風の音や鳥の声、夜になると鹿の鳴き声だけが私の耳に伝わってくる。

眠りについたような村

 今年も年末年始は村で過ごしていた。例年だとこの季節は村もけっこう賑やかである。ほとんどの家に子どもや孫たちが帰省してくる。平地の少ない村だから、帰省した人たちの車を停る場所がなく、集落のなかの道は駐車する車が多くて走行に苦労することもある。家々からは、賑やかな様子が伝わってくる。

 温泉のある村の宿泊施設で正月を過ごす観光客も多くて、正月はどこも満室になっている。日帰りで冬の村を楽しむ人たちも姿をみせ、正月から道の駅などでは村の特産品を売る新春セールがおこなわれ、そこもまた駐車場が満車になるほどの賑わいを示す。

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