連載小説:裂けた明日 第1回

執筆者:佐々木譲2021年5月1日
写真提供:時事

 

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 西の方角から、鈍い重い音が響いてきた。

 沖本信也は思わず身をすくめ、耳を澄ました。

 砲撃? それとも飛行機による爆撃か。

 わずかの間を置いて、また衝撃音があった。ふたつ目のその音は、最初よりも大きな音に聞こえた。ほとんど間を空けなかった三つ目の衝撃音が重なったのかもしれない。地響きがあったようにも感じたが、確信は持てなかった。

 どちらにせよ、近くではない。少なくともこの二本松市から二十キロ以上は離れた場所での爆発音だ。あるいはそれ以上の距離か。しばらく絶えていた音だけれど、情勢がまた変化したのかもしれない。

 信也は、裏庭の小さな菜園の脇で立ち上がった。音がしたのは、猪苗代湖とか、会津若松市の周辺だろう。あちらで砲撃とか空爆があったのだ。ひと月ほど前から、会津盆地の北に、盛岡政府側の地上軍や民兵部隊が集結しているという話が聞こえていた。

 これに対して、平和維持軍のどこかの部隊が攻撃に出たのだ。あるいはその逆かもしれないが、あの爆発音だけではその判別は難しい。いずれにせよ、これからまた当分のあいだ、会津盆地から東に抜けた先の郡山市の周辺は、危険地域となる。また難民が出る。国道四号線に、避難民の長い列ができる。

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