連載小説:裂けた明日 第4回

執筆者:佐々木譲2021年5月22日
写真提供:EPA=時事

追っ手から逃れるために、軍事境界線を越えたいと言う真智。内戦後の日本は、あまりに複雑な状況に陥っていた。

[承前]

 真智が答えた。

「越えることができれば、東京を目指すつもりです。知り合いも多いし、なんとか東京でなら、生きて行けます」

「東京か」

 東京は、あの戦争のあと、占領する平和維持軍の統治下にある。国民融和政府も東京に置かれているが、その統治権は、東京を除外されていた。

 平和維持軍の統治下にあるが、東京が完全に平和で安全な都市になっているわけではない。外国軍の占領と、国民融和政府を受け入れない日本人によって、抵抗活動が続けられている。盛岡政府と同じく、外国軍の即時撤退と完全独立が、抵抗活動側の要求であり主張だ。東京の住人の一部は、これを支持している。

 平和維持軍の進駐直後は、行政機関や占領軍に対しての破壊活動、テロ活動が活発だった。いまは多少穏やかになったとはいえ、完全に収束したわけではない。東京の地下に潜った抵抗活動組織が、ことあるごとに平和維持軍の拠点にロケット弾を飛ばし、外国企業の商業施設で爆弾を炸裂させている。これに対して、平和維持軍による抵抗組織の摘発作戦も苛烈に続いていた。また平和維持軍は、分離を宣言した地方から、難民に紛れて抵抗組織が侵入することを何より警戒している。東京に入域することは容易ではない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。