連載小説:裂けた明日 第8回

執筆者:佐々木譲2021年6月19日
写真提供:時事

陸上自衛隊の特殊車両で軍事境界線を突破するーー。地元の道に詳しい長谷川から逃走の指南を受けるが……。

[承前]

 長谷川は運転席に乗り込むと、セルスターターでエンジンを始動させた。ブオンという大きな音を立てて、排気ガスが、D型ハウスの中に排出された。

「快調だ。このひと月ぐらい、動かしてなかったんだけど」

「燃料は?」信也は訊いた。

「十分だ。五十は入ってる。装備を取り外したんで、かなり軽くなった。リッター四キロいく。一一二まで行って余裕で帰って来られる」

「軽油がよく手に入るな」

「ここが地元なんだよ。古いつきあいがある。さ、あんたの車から荷物を移せ」

 真智がすぐに言った。

「あたしたちで。沖本さんのバッグは?」

 土産を入れてきたバッグとは別に、自分のショルダーバッグも後部席に置いていた。

「一緒に持ってきてもらえるかな」

「ええ」

 真智は母屋の表に停めてある信也の軽自動車のほうへと、由奈と一緒に歩いていった。

 長谷川が下りてきて、信也に言った。

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