連載小説:裂けた明日 第9回
2021年6月26日

写真提供:時事
突然現れた民間防衛隊に、長谷川が撃たれてしまう。防護車を急発進させた信也は、全てを振り切るように軍事境界線を目指す。
[承前]
「ああ」と信也は正直に答えた。「地図には、道が二本あるようには印刷されていなかったと思う」
「長谷川さんの指先は、地図の上で一度、このような分岐のところを差していました。たしか」
「どっちに行けと?」
「口にはしていなかったけど、ふたつあるうちの左側です。北から見て」
「左側だと、双葉町の前田川の源流に出てしまうのではないかと心配している。かといって右手だと、逆にまた高瀬川の上流に出てしまうかもしれない」
由奈が言った。
「左側の道の先に、数字が書いてあった。六七〇って。道はその前で切れてた」
信也は振り返って後部席の由奈に確かめた。
「左側の道の先に、六七〇?」
「はい。そう読めた」
真智が訊いた。
「わかりました?」
「ああ。その高さだと、うろ覚えだけれど、東大森というピークだと思う。右でいいんだ。尾根から南へ下ることになる。万右衛門溜池に通じる道に出るはずだ」
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