裂けた明日 (9)

連載小説:裂けた明日 第9回

執筆者:佐々木譲 2021年6月26日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

突然現れた民間防衛隊に、長谷川が撃たれてしまう。防護車を急発進させた信也は、全てを振り切るように軍事境界線を目指す。

[承前]

「ああ」と信也は正直に答えた。「地図には、道が二本あるようには印刷されていなかったと思う」

「長谷川さんの指先は、地図の上で一度、このような分岐のところを差していました。たしか」

「どっちに行けと?」

「口にはしていなかったけど、ふたつあるうちの左側です。北から見て」

「左側だと、双葉町の前田川の源流に出てしまうのではないかと心配している。かといって右手だと、逆にまた高瀬川の上流に出てしまうかもしれない」

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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