裂けた明日 (43)

連載小説:裂けた明日 最終回

執筆者:佐々木譲 2022年2月26日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:EPA=時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

高麗連邦の保護を求めて、日の出桟橋近くまでやって来た三人。信也は高麗連邦軍の兵士から、真智母娘との関係を確認される。

[承前]

「違う」と信也は答えた。

 もしここを突破できても、何度も同じ質問をされることになる。そのたびに虚偽を答えることはできなかった。いや、そもそも自分は真智や由奈と一緒に脱出船に乗るつもりなどなかった。ここで別れるべきなのだ。

 イ上等兵が訊いた。

「あの女の子の祖父と伝えなかった?」

「母親が、わたしも助けようとして言った。血のつながりはない」

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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