裂けた明日 (39)

連載小説:裂けた明日 第39回

執筆者:佐々木譲 2022年1月29日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

作業現場で知り合った男の死を知り、信也と真智は愕然とする。行き場を失った三人は、頼る者のいない新天地での生活を憂う。

[承前]

 この日は、時間をかけて夕食を終えた。

 三人とも、食堂のカウンターで選んで載せた器の中身を、きれいに食べたのだ。プラスチックの器が使われていたけれども、少なくとも一応は料理ごとに器を変えた夕食だった。明日、朝食を終えた後は、しばらくはもうこのような食事はできなくなると予想できた。またカップ麺か、ファーストフード店での食事が続くことになるのだ。それを信也は口にしたわけではなかったけれど、真智も由奈も同じことを予想しての食事となったのは確実だ。由奈も、ゲートでの村井と信也とのやりとりを聞いて、自分たちの置かれた状況は理解しているはずだった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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