連載小説:裂けた明日 第39回

執筆者:佐々木譲2022年1月29日
写真提供:時事

作業現場で知り合った男の死を知り、信也と真智は愕然とする。行き場を失った三人は、頼る者のいない新天地での生活を憂う。

[承前]

 この日は、時間をかけて夕食を終えた。

 三人とも、食堂のカウンターで選んで載せた器の中身を、きれいに食べたのだ。プラスチックの器が使われていたけれども、少なくとも一応は料理ごとに器を変えた夕食だった。明日、朝食を終えた後は、しばらくはもうこのような食事はできなくなると予想できた。またカップ麺か、ファーストフード店での食事が続くことになるのだ。それを信也は口にしたわけではなかったけれど、真智も由奈も同じことを予想しての食事となったのは確実だ。由奈も、ゲートでの村井と信也とのやりとりを聞いて、自分たちの置かれた状況は理解しているはずだった。

 食べ終えて飲み放題の緑茶を飲んでいるとき、食堂の入り口から大股に入ってくる男があった。六十代と見えるが、血色がよく、体格もいい。男は信也たちのすぐ隣りのテーブルに近づきながら、そのテーブルに着いている三人の女性たちに言った。

 「パスだ」

 女性三人と男は、家族のようだ。男の女房と娘と孫か。娘の亭主らしき男はいないが、こういう世の中だ。まず想像できるのは、何らかの被災死だ。離婚だろうかというのはその次に来る。

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