連載小説:裂けた明日 最終回

執筆者:佐々木譲2022年2月26日
写真提供:EPA=時事

高麗連邦の保護を求めて、日の出桟橋近くまでやって来た三人。信也は高麗連邦軍の兵士から、真智母娘との関係を確認される。

[承前]

「違う」と信也は答えた。

 もしここを突破できても、何度も同じ質問をされることになる。そのたびに虚偽を答えることはできなかった。いや、そもそも自分は真智や由奈と一緒に脱出船に乗るつもりなどなかった。ここで別れるべきなのだ。

 イ上等兵が訊いた。

「あの女の子の祖父と伝えなかった?」

「母親が、わたしも助けようとして言った。血のつながりはない」

「あなたの娘さんとお孫さんじゃないのね?」

「違う」

「国籍は?」

「日本」

「高麗連邦に、親族はいる?」

「いいや」

「あなたを船に乗せることはできない」

「わかっている」

 車両から真智と由奈が下りてきた。ふたりとも、安堵した顔だ。手首に、イベント会場などで渡されるリストバンドのようなものを巻いている。国籍チェック済みの証明なのだろう。

 真智が近づいてきて言った。

「確認されました。船に乗ります」次の瞬間に顔色が変わった。「沖本さんは」

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