連載小説:裂けた明日 第10回

執筆者:佐々木譲2021年7月3日
写真提供:時事

自衛隊の特殊車両で追っ手を振り切り、辛くも逃れた三人。一路、富岡駅を目指すが――。

 その自動車整備工場は、富岡町の市街地のはずれという場所にあった。

 いましがた県道一一二で阿武隈高地を東に下り、太平洋側に近い平地部に入ったところで右折して県道三五に入った。一一二は三五と一部区間が重なるが、すぐに三五から分かれて富岡町の市街地に入り、富岡駅近くの国道六号との交差点で終わる。

 しかし沖本信也は、市街地に入るのは避けたかった。軍事境界線のすぐ背後という位置だから、福島第一原発周辺のフランス軍のほかにも、平和維持軍を構成する各国軍のうちいくつかは、この町の周辺にキャンプなり後方拠点を持っていると考えたほうがいい。だから信也は、その工場に接近する最短の道を使おうとしているのだった。

 片側一車線の県道三五の左右はかつては水田だったのだろうが、いまは一面、耕作放棄されている。車窓にはその荒れた水田と、林、里山が交互に現れてきた。車の通行量は少なかった。三五に入ってからは、二台のトラックとすれ違っただけだった。

 JR富岡駅の表示が出た。路線は分断されたが、内戦開始後もJR東日本はそれまでの社名のままで営業しているのだ。富岡駅の表示のある三差路で海岸側に折れ、谷間の道路を東進して常磐自動車道の高架の下をくぐった先に、その工場の案内板が見えてきた。三百メートル先とある。周囲はまだ市街地にはなっていない。

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