裂けた明日 (10)

連載小説:裂けた明日 第10回

執筆者:佐々木譲 2021年7月3日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

自衛隊の特殊車両で追っ手を振り切り、辛くも逃れた三人。一路、富岡駅を目指すが――。

 その自動車整備工場は、富岡町の市街地のはずれという場所にあった。

 いましがた県道一一二で阿武隈高地を東に下り、太平洋側に近い平地部に入ったところで右折して県道三五に入った。一一二は三五と一部区間が重なるが、すぐに三五から分かれて富岡町の市街地に入り、富岡駅近くの国道六号との交差点で終わる。

 しかし沖本信也は、市街地に入るのは避けたかった。軍事境界線のすぐ背後という位置だから、福島第一原発周辺のフランス軍のほかにも、平和維持軍を構成する各国軍のうちいくつかは、この町の周辺にキャンプなり後方拠点を持っていると考えたほうがいい。だから信也は、その工場に接近する最短の道を使おうとしているのだった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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