連載小説:裂けた明日 第11回

執筆者:佐々木譲2021年7月10日
写真提供:時事

情報は分断され、状況は刻々と変わっていた。信也は現地の情報を精査しながら行く手に思いを巡らせる。

[承前]

 ふたりの背を見送ってから、吉澤が訊いてきた。

「あっちのほう、いまの様子はどうなんだ?」

 戦況を訊かれたのだろう。

「しばらく落ち着いていましたよ。でも、昨日、会津のほうで砲撃か空爆の音がした。戦闘が始まったようです」

「二本松では、何かあったのか?」

「戦闘は起こっていませんが、福島市では反政府活動家の摘発が始まっています」

「福島でも戦闘が始まる前兆ってことか」

「こんどこそ、二本松も危ないと思って逃げてきたんです」逆に訊いた。「こちらは、どうなんです。こちらのことは、二本松では全然報道されないか、盛岡政府の宣伝みたいなものばかりなので、ほんとうのところがわからない」

「このあたりじゃ、しばらく大きな戦闘は起こっていなかった。双方が手詰まりだから、逆にまたどこかで始まるんじゃないかって噂されてた。会津のほうの戦闘はそれなのかもしれない。どっちが始めたんだ?」

「わかりません。東京の様子は?」

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