世界初の認知症治療薬「アデュカヌマブ」の功罪(前編)

綱渡りだった承認の舞台裏

執筆者:緑慎也2021年7月4日
米食品医薬品局(FDA)が承認したアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」 (製品名アデュヘルム)[エーザイ提供] ©時事

 トップでゴールした選手が疑惑の目にさらされている。といっても、スポーツの話ではなく、アルツハイマー病に対する世界初の根本治療薬として6月8日に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた「アデュカヌマブ」(商品名アデュヘルム)のことである。

 医薬品開発のレース中から、アデュカヌマブはいわくつきのトップランナーだった。快調なスタートを切ったかと思えば、途中でレースから脱落し、そうかと思えば異例の復活を遂げ、そのまますんなりゴールするかと見えたが、終盤で、外野の審判から「ゴールを認めてはならない」と物言いが付いている状況の中、ゴールテープを切ったのである。

 筆者は、今年2月に上梓した認知症の新しい常識(新潮新書)の「おわりに」に、「(刊行後にアデュカヌマブの承認の可否がはっきりした時)人々は世界初のアルツハイマー病に対する治療薬が誕生して大喜びしているかもしれないし、逆に、またもやダメだったとがっくりしているのかもしれない」と書いた。

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