ジョージ・フロイド氏の似顔絵を掲げる「ブラック・ライヴズ・マター(BLM)」のデモ隊 ©AFP=時事

 

1.「世界中が見ているぞ」——暴力の可視化

 新しく就任した司法長官から直々に呼び出された2人の連邦検察官が国家の「安全保障」のために裁判で戦うよう命じられる。長官の描いた「共謀罪」での告訴が無理筋であることを直接進言しながらも首席検事を務めることを渋々引き受けた若く有能な検察官は、長官室を退出後、こうつぶやく。「被告たちがまさに欲しがっている舞台と観客を与えることになる」と。ことの重大さをとらえきれていない同席した年長の検察官は「本気で大勢の観客が詰め掛けるとでも?」と応答することになるが、その言葉を即座に否定するように画面外から「世界中が見ているぞ!(The whole world is watching!)」という声が聞こえてくる。

 声が大きくなるとともに画面が切り替わると、それが裁判所に詰め掛けた市民によるシュプレヒコールであることが明らかになる。1968年にシカゴで開かれた民主党全国大会の際の「暴動」の扇動を共謀したとして、ヴェトナム反戦活動家7人が裁かれたアメリカ司法史上もっとも「恥ずべき」裁判のひとつを描いた、法廷映画『シカゴ7裁判』(The Trial of the Chicago 7, 2020年) の冒頭近くの場面である。市民の唱和に迎えられるように「シカゴ7」のうちの2人、アビー・ホフマン(サシャ・バロン・コーエン)とジェリー・ルービン(ジェレミー・ストロング)が登場し法廷での闘いがはじまる——。受賞こそ逃したものの、アカデミー賞オリジナル脚本賞(監督でもあるアーロン・ソーキンによる)にノミネートされたこの作品を、新型コロナウイルスの感染拡大により結果的にネットフリックスが「配給」を引き受けたことで、いま文字通り「世界中が見ている」ことだろう。

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