英空母クイーン・エリザベス(写真)の西太平洋展開は、欧州の「インド太平洋」への目覚めのシンボル (C)AFP=時事

 欧州はいま、インド太平洋ブームだといってよい。

 フランス、ドイツ、オランダなどがインド太平洋に関する安全保障戦略や政策指針を相次いで発表した。EU(欧州連合)も2021年4月の外務理事会(外相会合)で、インド太平洋戦略策定に向けた指針を採択した。今年9月には政策文書として示される予定である。また、EUから離脱した英国は2021年3月に、外交安全保障の「統合レビュー(Integrated Review)」を発表し、「インド太平洋傾斜(Indo-Pacific tilt)」を掲げた。欧州がいっきに、インド太平洋に目覚めたかのようである。

 何がこうした変化をもたらしているのか。欧州は何を目指しているのか。中国への対抗なのか、米国への追従なのか。これらについて検討していきたい。

「地理的に最も近いアジア」として

「インド太平洋」という用語・概念が欧州で定着するには日本や米国より時間がかかったが、実のところ、インド太平洋はアジア太平洋よりも欧州にとって都合がよい。というのも、欧州にとってはインドやインド洋こそが、地理的に最も近いアジアだからだ。インド太平洋の方が、アジア太平洋よりも身近なのである。地中海からスエズ運河を抜ければ、インド洋はすぐそこにある。

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