連載小説:裂けた明日 第15回

執筆者:佐々木譲2021年8月7日
写真提供:AFP=時事

数々の危険をくぐり抜け、綾瀬駅に到着した三人。迎えに来た真智の知人の剣呑な様子に、電車に飛び乗り、逃れるが……。

[承前]

 千代田線の車両は、JR常磐線の新松戸駅に入った。

 沖本信也は、プラットホームの前後を見渡して、不審と思える人物がいないかどうかを確かめた。酒井真智のメールに即座に迎えに行くと反応し、綾瀬駅までやってきた男たちは、この千代田線を追うことはなかったろう。車で追えるものではない。しかし、東京東部にはまだ彼らの仲間がいてもおかしくはなかった。連絡を受けて、乗換駅であるこの新松戸駅で待ち構えている可能性があった。

 そもそも軍事境界線で国が分断されているとはいえ、住民は必ずしもきれいに、政治的な主張や支持する国家観によって分かれていない。何色ものビーズをかきまぜたように混じり合ってかつての国土に散らばっている。歴史的あるいは文化的な差異から、土地によって多少色相に違いが出ている程度だ。

 だから盛岡政府支配地域に、あちらでは危険文書扱いの書物を持つ信也が暮らしていたのだし、軍事境界線のこちら側にも、真智を破壊活動分子として拉致や排斥にかかる住民がいる。

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