裂けた明日 (15)

連載小説:裂けた明日 第15回

執筆者:佐々木譲 2021年8月7日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:AFP=時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

数々の危険をくぐり抜け、綾瀬駅に到着した三人。迎えに来た真智の知人の剣呑な様子に、電車に飛び乗り、逃れるが……。

[承前]

 千代田線の車両は、JR常磐線の新松戸駅に入った。

 沖本信也は、プラットホームの前後を見渡して、不審と思える人物がいないかどうかを確かめた。酒井真智のメールに即座に迎えに行くと反応し、綾瀬駅までやってきた男たちは、この千代田線を追うことはなかったろう。車で追えるものではない。しかし、東京東部にはまだ彼らの仲間がいてもおかしくはなかった。連絡を受けて、乗換駅であるこの新松戸駅で待ち構えている可能性があった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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