連載小説:裂けた明日 第18回

執筆者:佐々木譲2021年8月28日
写真提供:時事通信フォト

民泊に落ち着き、真智と信也は今後の策を相談する。綾瀬駅での出来事もあり、真智が頼りにする仲間についても気にかかり……。

[承前]

「いい」と信也は言った。「わたしも、聞いたりしないほうがいいだろう」

「沖本さんは、共同統治地域までわたしたちを送ってくれたあと、何か当てはあるんですか?」そう言ってから、真智は苦笑した。「何も確かめずにここまで付き添ってもらっていて、呑気過ぎますけど」

「わたしも、友達なり親族なりを頼るさ」

  自分には難民キャンプに行くことも選択肢のひとつだ、と思ったが、それは口にしなかった。若いひとや働き盛りなら、難民キャンプはたしかに刑務所のようなものだ。でもこの歳になれば、あまり待遇のよくない老人ホームだと考えることもできる。

「とにかく、あなたたちを安全な場所まで送ることが先だ。明日は朝早くにここを発つ。真智さんも、髪が乾いたら、眠るといい」

「はい」

 信也は布団に潜り、掛け布団を首まで引き上げて、目をつぶった。

 

 翌朝、五時半に目を覚まして階下のトイレに行くと、民泊の老夫婦はもう起きていた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。