切り札だった五輪だが……(C)時事

 

「私なら観客を入れて…」と安倍氏

「多くの試合は無観客で行われるが、東京大会の意義は決して損なわれない。世界で40億人もの人々がテレビなどを通じて観戦する。世界が大きな困難に直面する今こそ団結し、人類の努力と英知によって大会を開催できることを日本から世界に発信したい」

 菅首相は7月20日、都内で開かれたIOC(国際オリンピック委員会)総会でこう強調し、観客の有無ではなく、大会を開くこと自体に価値があると訴えた。しかし自民党内では、大半の競技場が集中する東京など1都3県が無観客となったことに落胆する声が多い。

「私なら、たとえ少しでも必ず観客を入れて開催するね。科学的にも大丈夫なんだから」

 安倍晋三前首相は7月中旬、親しい細田派の中堅議員にこう語り、政府や大会組織委員会の決断に疑問を投げかけた。

 7月13日に米西部デンバーで開かれた大リーグ・オールスター戦では、約5万人の観客がスタジアムを埋めた。その2日前に英国で開かれたサッカー欧州選手権の決勝戦は、6万人を超える観客が入っている。ヨーロッパ各地で開催された欧州選手権には感染拡大を招いた可能性があるが、少なくとも世界へのアピールという意味では、東京五輪は安倍氏や菅首相がこだわってきた「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」からほど遠いものになった。ある自民党幹部は、むしろ「日本の敗北を印象付けてしまう」と指摘する。

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