中央政策研究室主任を長年務めた王滬寧氏(右)は、指導者の意向を理論化する上で大きな役割を果たしてきた ⓒAFP=時事

 習近平総書記は、2017年秋に開かれた第19回党大会において、2050年頃までに実質、アメリカに並ぶことを宣言し、チャイナ・モデルは欧米モデルに代わる新たな選択肢となり得ると豪語し、アメリカを強く刺激した。これは「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」の具体的中身の説明なのだが、実は「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」、つまり「習近平思想」の重要な構成部分の一つでもあった。しかも、この「習近平思想」は、共産党にとっては憲法に当たる党規約に書き込まれた。ついにマルクス・レーニン主義、「毛沢東思想」、「鄧小平理論」、「“三つの代表”重要思想」(江沢民)、「科学的発展観」(胡錦濤)と並ぶ、共産党の指導理念となったのだ。

 脚注的に言えば、こういう“指導理念”が論理的、体系的に一冊の本になっているわけではない。いろんな場面での指導者の発言を集めたものであり、その発言集は何冊にもなる。それを理論担当者や研究者が論理的、体系的なものとして説明する。鄧小平の時代は、やってみて結果が出れば正しいというので大胆かつ次々と新しいことを試みた。それをマルクス・レーニン主義、「毛沢東思想」と整合性のある理論に仕上げろと言うのだから、理論担当者は大変だろうなと心から同情したものだ。毛沢東は自筆の論文として発表することが多かったが、鄧小平は事前原稿なしで話をした。しかし、江沢民以後は大体、事前に準備された原稿を読み上げるようになった。ここで中南海の理論担当部門が活躍する。すなわち中央政策研究室主任であり、現在党内序列第5位の政治局常務委員にまで昇進した王滬寧が、2002年から20年まで務め続けたポストである。つまり王滬寧は、ときの指導者の意向を踏まえて、それを理論化する上で大きな役割を果たしてきた。「習近平思想」の形成にも重要な役割を果たしていると推定できる。

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