連載小説:裂けた明日 第20回

執筆者:佐々木譲2021年9月11日
写真提供:時事

真智の仲間からの連絡を待ちつつ、移動の便のいい吉祥寺へやって来た三人。荒れた街の様子を目にした信也は、過ぎ去った年月に思いを馳せる。

[承前]

 国内資本のファーストフードの店に入り、それぞれ軽食を注文して二階に上がった。この時刻、制服姿の学生もいない。わりあい空いていた。プラスチックの椅子はどれも汚れ、縁が欠けるほどに劣化していた。

 三人とも注文の品をすべて食べ終え、残ったドリンクをなめるように口に入れているとき、真智のスマホの振動音が聞こえた。真智はリュックからスマホを取り出すと、電話です、と言って立ち上がり、階段の下り口まで歩いた。

 真智の短い言葉が、途切れ途切れに聞こえてくる。

「はい。ええ。はい」

 具体的な指示の連絡なのだろう。メールでは、細かなところまで伝え切れないということだ。

 真智は席まで戻ってきて言った。

「午後二時までに、京王線の多磨霊園駅か、西武多摩川線の多磨駅に行けるかと訊かれたので、行けると答えました」

 時計を見た。いま十時十五分。埼玉や東京の東側に行くのではない。十分行ける。

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