連載小説:裂けた明日 第21回

執筆者:佐々木譲2021年9月18日
写真提供:時事

検問を抜けるために真智の仲間が手配してくれたのは、豚の運搬車に潜む方法だった。予想外の手立てに、不安も募るが……。

[承前]

 運転手が由奈に顔を向けた。

「小さな仕切りの中で、ちょっとじっとしているだけだよ」

 真智が訊いた。

「どのくらいです?」

「調布インターで乗って、高井戸で検問を受ける。抜けたら、次の永福パーキングエリアで下ろす。検問の時間を見ても、最大で一時間」

 運転手は、信也に言った。

「ちょっと見てくれ。横の隙間から、下の荷台のいちばん前の隙間に乗るんだ」

 信也は運転手が示すサイドガードに足をかけ、身体を持ち上げて荷台を見た。荷台は鉄パイプの柵で仕切られていて、数頭ずつの豚がその仕切りの内側にいる。すぐ左手、運転台の裏側に、ステンレスを貼った箱のようなものがあった。ステンレスは鏡の役割を果たしていて、荷台の豚が映っていた。荷台の真後ろから見ると、そこに箱があるとはすぐにはわからないだろう。奥行きがあるように見える。物を隠して空間を広く見せるトリック。スーパーマーケットの野菜売り場の造りと同じだ。

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