連載小説:裂けた明日 第26回
2021年10月23日

写真提供:AFP=時事
無事に封鎖線を越え、宿泊場所のテント村で入場の手続きを済ませた三人。施設の案内は、少し意外なものだった。
[承前]
戦前の労働条件が、世界水準からかけ離れていたのだ。いまは国民融和政府の支配地域では、どの企業でも、どこの作業現場でも、待遇はこのようなものなのではないか。
信也は言った。
「昔がひどすぎた。非正規や派遣の労働者も、ホワイトカラーも。北は、いまもそのままだけど」
「あの係のひとは、作業員がやめていくことも気にしていない様子でした」
信也は、自分が就いてきた仕事の文化を思い起こしながら、想像を口にした。
「たぶん国際復興基金かどこかから、ひとに職を与えたらいくらと、補助が出ているんだ。記録があれば、その補助金は受け取れる。そのための幽霊作業員として、わたしたちは登録されたんだ」
真智は納得した顔となった。
「ひと晩だけのことだったら、きょうは無理して友達にコンタクトをとらなくてもいいと思います。ここは安全なようだし」
「共同統治地域に入ったとは、お仲間に伝えておいてもいいだろうな。どんなところにいるかも、おおまかに。地名や会社の名前は出さずに」
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