CSU/CSUの選挙集会に臨んだメルケル首相(C)AFP=時事

 

 現在のドイツの安定ぶりを目にすると、この国がかつて「欧州の病人」と呼ばれた頃を想像するのは難しい。

 1989年に「ベルリンの壁」が崩壊して以降32年間のうち、前半のドイツは、経常赤字や高失業率に苦しみ続けた。90年の東西ドイツ統一で生じた旧東独地域への支援が大きな負担となったうえ、労働コストの高騰なども重なったからである。それだけに、後半の回復ぶりは目覚ましい。経常黒字は世界トップレベル、失業率も欧州連合(EU)内では最低レベルとなり、EU内での「一人勝ち」状態となった。

 アンゲラ・メルケルが首相を務めた後半の16年間は、従ってこの国の黄金期にあたる。民主国家としては異例の長期政権。経済の好調さを象徴するかのような手堅い統治スタイルに徹したメルケルは、9月26日の総選挙の結果とその後の連立交渉を受けて誕生する後継首相に後事を託し、引退する。

 ドイツはなぜ、これほどの繁栄を築けたのか。その中でメルケルが果たした役割は何か。ドイツはこれからどこに向かうのか。

 こうした疑問を、経済やEUとの関係を通じて分析、展望した例は少なくない。ここでは、従来注目されたとは言い難い近隣国との関係、特に旧東欧諸国やロシアなどへの「東方政策」を通じて、これらの疑問を考えてみたい。

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