台湾海軍駆逐艦「丹陽」(旧日本海軍駆逐艦「雪風」) 写真・中華民國海軍Facebookより

 

はじめに-国際法上の「封鎖」とは何か

 中国による台湾海上封鎖の可能性が指摘される。それを巡る議論は様々あるが、そもそも「封鎖」とは国際法上いかなるものかを意識して論じるものは少ない。

 一般には封鎖の語は広い意味で用いられる。戦争中に軍艦が沿岸近くまで寄って港湾の出入りを止めるような場合の他に、第二次大戦で行われた潜水艦や航空機による広大な海域での交通路破壊も封鎖といわれた。核ミサイル配備阻止という目的で、戦争もないのに米軍がキューバを取り囲んだ1962年のキューバ封鎖もあったし、ベトナム戦争中の1972年に米軍が北ベトナム港湾に機雷を敷設したのも封鎖といった。さらには、1980年代のイラン・イラク戦争で懸念されたイランによるホルムズ海峡封鎖や、冷戦中のソ連太平洋艦隊通過阻止のための日本による三海峡封鎖論のように自国沿岸の航行制限も封鎖と称した。つまりは、兵力を用いて一定の海域の交通を止めるなら何でも封鎖と呼んでいるのである。

 しかし、国際法上の封鎖(blockade)は特定の意味を持つ。国際法のうちで海上での封鎖を扱うのは海戦法規と海上中立法規で、そこでは、国家間戦争を主とする今では国際的武力紛争と総称される事態において、その一方の当事者が相手方当事者の支配地域沖の一定の海域に軍艦(水上艦)を配し、そこを出入りする全船舶を止めることを封鎖という。有効な封鎖であるためには、この措置がとられる旨の宣言も要す。定義をめぐる議論はなおいくらか残るが、1856年のパリ宣言等に見られるこうした基本的要件は慣習国際法としても維持されてきた。国際法上の封鎖では、封鎖設定国は、封鎖線通過を試みる船舶を封鎖対象国のものでも第三国のそれでも積荷もろとも没収してよいという法効果が生じる。以下、本稿では封鎖という場合、この国際法上の封鎖を指す。

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