中国による台湾「封鎖」は可能か――国際法が導く意外な帰結――

執筆者:真山全 2021年10月5日
エリア: アジア
台湾海軍駆逐艦「丹陽」(旧日本海軍駆逐艦「雪風」) 写真・中華民國海軍Facebookより
台湾有事をめぐって想定されるシナリオのひとつとして、中国による海上封鎖の可能性が挙げられることが多い。しかし、国際法に照らせば、「封鎖」という言葉を用いることで予想外の効果が生じるかもしれない。

 

はじめに-国際法上の「封鎖」とは何か

 中国による台湾海上封鎖の可能性が指摘される。それを巡る議論は様々あるが、そもそも「封鎖」とは国際法上いかなるものかを意識して論じるものは少ない。

 一般には封鎖の語は広い意味で用いられる。戦争中に軍艦が沿岸近くまで寄って港湾の出入りを止めるような場合の他に、第二次大戦で行われた潜水艦や航空機による広大な海域での交通路破壊も封鎖といわれた。核ミサイル配備阻止という目的で、戦争もないのに米軍がキューバを取り囲んだ1962年のキューバ封鎖もあったし、ベトナム戦争中の1972年に米軍が北ベトナム港湾に機雷を敷設したのも封鎖といった。さらには、1980年代のイラン・イラク戦争で懸念されたイランによるホルムズ海峡封鎖や、冷戦中のソ連太平洋艦隊通過阻止のための日本による三海峡封鎖論のように自国沿岸の航行制限も封鎖と称した。つまりは、兵力を用いて一定の海域の交通を止めるなら何でも封鎖と呼んでいるのである。

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
真山全(まやまあきら) 1957年生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科教授。専門は国際法、武力紛争法(国際人道法)、海戦法規。1982年京都大学法学部卒業、1987年京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学。甲南大学、コロンビア大学ロースクール研究員、防衛大学校を経て、2008年より現職。共著に『ビジュアルテキスト国際法』(有斐閣)、『防衛実務国際法』(弘文堂)など。
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