連載小説:裂けた明日 第29回

執筆者:佐々木譲2021年11月13日
写真提供:時事

真智の仲間たちの活動拠点である元小学校で、信也は尋問のような聞き取りを受ける。不快を押し殺しながら対応するが――。

[承前]

 増子は顔をしかめて言った。

「内戦下ですよ。突然現れた人物の身元は気になります」

「わたしが望んでここに来たわけじゃない。あなたたちに連れて来られたんですよ」

「ではどうして、ここまで酒井さん親子と一緒だったんです?」

「たぶん真智さんはもう伝えていると思いますが、最初は軍事境界線を越えたところまで、道案内をするつもりだった。だけど、わたしもふたりと一緒に逃げるしかなかった」

「民防は、酒井さんを追っていたんですか?」

「そうでしょう。民防は、わたしのところに酒井さん親子が逃げてくるのを予期していたようです。酒井さんたちが来る前にやってきて、家捜しをしていった。そのときに、たぶんわたしの車にGPS発信器でもつけたんでしょう」

「その車はどうなりました?」

「逃げる途中で捨てました。軍事境界線を越える前に」

「自動車を一台捨てたのですか?」

「生きるか死ぬかというときに、自動車を選ぶひとはいないでしょう」

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