連載小説:裂けた明日 第30回
2021年11月20日

写真提供:時事
元小学校でふいに落ち着きをなくした由奈。スマホの画面を使って知らされたその理由に、信也は驚愕する。
[承前]
信也は驚きを顔に出さないようにつとめ、由奈に言った。
「きんきゅう、だよ」
「やっぱり」
由奈はその画面を消去した。
信也は真智を見た。彼女も信也を真正面から見つめてくる。そういうことなの、とその目は言っていた。
信也は自分のスマホをポケットから取り出すと、由奈と同じように入力した。
「脱出。非常ベル。電源」
その画面を由奈に見せて言った。
「学校に行っていないと、漢字も読めなくなるね。学校に行きたくないか?」
由奈が信也の顔を見つめてきた。
「学校?」
きょう、彼女は品川埠頭のキャンプの外にある学校で過ごしたはずだ。そのことを思いつけたらいいが。ここ以外にも自分の居場所があることを。共同統治地域の中にも。
信也はスマホの画面を消しながら、小さくうなずいた。
信也の背中の方で、またポロシャツの男の声がした。
「あった? 2LDK。助かる。どこ? 三茶? ああ、そう、十五分ぐらいね。わかった。待ってる」
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