連載小説:裂けた明日 第31回

執筆者:佐々木譲2021年11月27日
写真提供:AFP=時事

スパイの潜んでいた元小学校から辛くも逃れた三人。品川埠頭のテント村に戻り、一夜を明かす。 

 翌朝、管理棟の食堂へ三人一緒に行った。

 先にテーブル席を確保し、まず信也と真智が列に並んで定食のトレイを受け取った。それから由奈が列に並んだ。

 テレビに近いテーブルだった。ちょうどニュース番組が流れている。

 音量は絞ってあるが、字幕がついていたので中身はわかった。

 新潟から会津若松にかけての軍事境界線を挟んでの衝突は、昨日のニュースよりも大規模なものになっていた。ここ数カ月の前線が静まっていた時期、盛岡政府側は軍と民間防衛隊の増強をひそかに進めていたのかもしれない。航空機や重砲による攻撃はないが、ミサイルは使用されている。

 平和維持軍は、新潟周辺ではインド軍が、会津若松周辺ではオーストラリア軍が展開している。米軍は地上攻撃機を投入して北の軍事拠点や交通の要衝を攻撃しているようだ。しかし、盛岡政府側の軍事基地や拠点はおおむね都市部に設けられている。緒戦時の経緯もあり、国民感情や国際世論を意識するなら、市民に被害が及ぶ攻撃は控えるしかない。ニュースを見た限りでは、効果的な反撃とはなっていない印象だった。

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