裂けた明日 (31)

連載小説:裂けた明日 第31回

執筆者:佐々木譲 2021年11月27日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:AFP=時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

スパイの潜んでいた元小学校から辛くも逃れた三人。品川埠頭のテント村に戻り、一夜を明かす。 

 翌朝、管理棟の食堂へ三人一緒に行った。

 先にテーブル席を確保し、まず信也と真智が列に並んで定食のトレイを受け取った。それから由奈が列に並んだ。

 テレビに近いテーブルだった。ちょうどニュース番組が流れている。

 音量は絞ってあるが、字幕がついていたので中身はわかった。

 新潟から会津若松にかけての軍事境界線を挟んでの衝突は、昨日のニュースよりも大規模なものになっていた。ここ数カ月の前線が静まっていた時期、盛岡政府側は軍と民間防衛隊の増強をひそかに進めていたのかもしれない。航空機や重砲による攻撃はないが、ミサイルは使用されている。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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