10月23日、サウジアラビアが、2060年までに「ネット・ゼロ(温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする)」目標を発表した。10月31日から始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前にしてサウジの首都リヤードで開催した「サウジ・グリーン・イニシアチブ」の舞台で、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が読み上げるという形で大々的に発表した。

「ネット・ゼロ」の目標設定は、すでに100以上の国々が表明している。目標達成のための手段が未開発であったり、国際法的な効力があるわけではないので、意図や効果は読みにくい。今回のサウジの目標達成期限が、他国が概ね設定している2050年ではなく2060年であることの意味も、分かりにくい。

そもそも産油国であるサウジがネット・ゼロを達成するといっても、産出し輸出した原油については計算に入っておらず、ネット・ゼロを達成するための「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の設立のための投資は原油・天然ガスの輸出にほぼ完全に依存する以上、世界の温暖化対策に資する効果は極めて限定的である。

産油国が「ネット・ゼロ」を華々しく表明して国際社会の注目を集めるという点では、10月7日にサウジの隣国UAEが、2050年までに達成するという目標を発表して先行している。サウジとUAEは、実際にネット・ゼロを達成できるか、そのための新しい経済なるものが実際に採算が取れるものなのかではなく、ネット・ゼロを打ち出して見せる「ナラティブ」を競っているという観測も、湾岸専門家の間にはある。

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