連載小説:裂けた明日 第34回

執筆者:佐々木譲2021年12月18日
写真提供:AFP=時事

緊急の場合のため、信也たちは念入りに再集合場所を下見する。日本の現状を象徴するような街の様子が、三人の目に映る。

[承前]

 信也たちは昭和通りに近いファーストフードの店で昼食を取ったあと、またJR秋葉原駅に入って、内回りの山手線に乗った。繁華街ではない共同統治地域の様子を窓から見るためだった。

 やってきた電車は、けっこう混んでいた。これも間引き運転のせいだろう。街に活気があるせいではないようだった。

 信也たちは先頭車両に乗り、いちばん前のドアに近い場所に立って、無言のまま窓の外の東京の風景を見つめた。上野駅を出ると、町並はどこもくすんでいる印象だった。本来なら広告やら看板だらけのはずの駅前も、空いた広告枠や看板跡だけが目立ってずいぶんと寒々としている。

 幹線道路も空いていた。電気乗用車の姿はほとんどない。北と同様に、ガソリンやディーゼルのトラックとか軽自動車が圧倒的に多い。通行人の数はそこそこあるが、共同統治地域内の経済活動がその外よりも活発という様子ではなかった。むしろ先日見た大宮の野天市場のほうが賑わっていたとさえ思えた。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。