裂けた明日 (34)

連載小説:裂けた明日 第34回

執筆者:佐々木譲 2021年12月18日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:AFP=時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

緊急の場合のため、信也たちは念入りに再集合場所を下見する。日本の現状を象徴するような街の様子が、三人の目に映る。

[承前]

 信也たちは昭和通りに近いファーストフードの店で昼食を取ったあと、またJR秋葉原駅に入って、内回りの山手線に乗った。繁華街ではない共同統治地域の様子を窓から見るためだった。

 やってきた電車は、けっこう混んでいた。これも間引き運転のせいだろう。街に活気があるせいではないようだった。

 信也たちは先頭車両に乗り、いちばん前のドアに近い場所に立って、無言のまま窓の外の東京の風景を見つめた。上野駅を出ると、町並はどこもくすんでいる印象だった。本来なら広告やら看板だらけのはずの駅前も、空いた広告枠や看板跡だけが目立ってずいぶんと寒々としている。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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