連載小説:裂けた明日 第35回

執筆者:佐々木譲2021年12月25日
写真提供:時事通信フォト

三杉との約束に向かう道すがら、信也は由奈との会話から学生時代の思い出を呼び起こされる。真智の母親である史子との、ある日の忘れがたい会話を。

[承前]

 地下鉄が春日の駅で停まり、七、八人の乗客が乗ってきて、その一部は信也たちの前に立った。信也たちは会話をやめた。

 三田線を日比谷駅で降りて、日比谷線の北千住方面行きホームに移った。二分ほどで電車が入ってきた。ひと駅で、銀座駅だ。ランデブー場所は、ホームのどのあたりかの指定はなかった。中央付近にいればいいのだろう。

 銀座駅で降りて、島式ホームの中央付近へと歩いた。真ん中近くにエレベーターがあった。その両側に、上下二基並んだエスカレーター。エスカレーターの乗り口はホームの両端側を向いている。

 エレベーターのあたりにいると、電車の真ん中の車両で三杉が降りない限り、信也たちを見つけにくい。またホームドアに寄って立たないと、ホームを端まで見通すのも難しい。自分たちは早めに互いを認識し、このホームから移動する必要があるが、そのためには二個所にあるエスカレーターのどちらか外側にいたほうがいい。ホームのそちら側で三杉を見つけることができない場合は、即座にホームの反対方向寄りに移ればいいのだ。信也は、中目黒方面側にあるエスカレーターの前方に立った。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。