連載小説:裂けた明日 第38回

執筆者:佐々木譲2022年1月22日
写真提供:時事

テント村から退去するよう告げられ、三人はすぐにでも落ち着く先を探す必要に迫られる。その矢先、ある光景が信也の目に飛び込んでくる。

[承前]

 トラックの運転席からドライバーが降りて、荷台の後部のドアを開けた。マスク姿の作業員たちのうち、ふたりが荷台に乗った。フォークリフトが近づいてくる。信也はその袋の脇まで近寄った。寝袋でいえばちょうど胸がくるあたりに、荷札のようなものがつけられている。ひとの名前が書いてあった。

 児玉正士と読めた。同じ作業現場のあの児玉だろうか。昨日、胸が苦しいと言っていた男。

 作業員が、よけてくれと信也に合図してきた。信也がよけると、作業員たちはフォークリフトに袋を乗せ、トラックの荷台に入れた。荷台に乗ったふたりが、袋の端に手をかけて、荷台の奥へと引っ張った。荷台には、すでにひとつ、同じような袋が積まれている。ふたりの作業員が荷台から降りると、ドライバーは後部ドアを閉じて、運転席に乗った。

 真智が訊いた。

「名前がついていました?」

「ああ」信也は発進していくトラックに目をやったまま答えた。「児玉さんだった。たぶん同じ現場の」

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