裂けた明日 (38)

連載小説:裂けた明日 第38回

執筆者:佐々木譲 2022年1月22日
タグ: 日本
エリア: その他
写真提供:時事
内戦により、分断された日本。相次ぐ震災と原発事故、そして例の病気の蔓延で、国民の生活は壊滅的な影響を受けていた。家族を亡くし一人暮らす男の元へ、逃亡者が現れる――。<作家の眼が、現実を鋭く照射する。近未来の分断日本を描く、スリリングなSF長篇>

テント村から退去するよう告げられ、三人はすぐにでも落ち着く先を探す必要に迫られる。その矢先、ある光景が信也の目に飛び込んでくる。

[承前]

 トラックの運転席からドライバーが降りて、荷台の後部のドアを開けた。マスク姿の作業員たちのうち、ふたりが荷台に乗った。フォークリフトが近づいてくる。信也はその袋の脇まで近寄った。寝袋でいえばちょうど胸がくるあたりに、荷札のようなものがつけられている。ひとの名前が書いてあった。

 児玉正士と読めた。同じ作業現場のあの児玉だろうか。昨日、胸が苦しいと言っていた男。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
佐々木譲(ささきじょう) [ささき・じょう] 1950(昭和25)年、北海道生れ。1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール讀物新人賞を受賞。1990(平成2)年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞。2010年、『廃墟に乞う』で直木賞を受賞する。著書に『ベルリン飛行指令』『天下城』『笑う警官』『警官の血』『地層捜査』『沈黙法廷』『抵抗都市』『図書館の子』『降るがいい』『雪に撃つ』『帝国の弔砲』などがある。
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