連載小説:裂けた明日 第40回

執筆者:佐々木譲2022年2月5日
写真提供:時事通信フォト

大学の同級生の久保と再会した信也。昼食の店に向かう途中、三杉の遺体が発見されたという情報が入る。

[承前]

   靖国通りを歩きだしたとき、後ろでサイレンのような音が鳴り始めた。信也たちは足を止めて振り返った。音は近づいてくる。自動車の警報器なのかもしれないが、警察車両のものではなかった。靖国通りを走行中の自動車がみな徐行し始めた。

 見ていると、元防衛省の正門のほうから軍用車が列を作って靖国通りを走ってきた。先頭は迷彩塗装の軽装甲車だった。その装甲車が、サイレンを鳴らしているのだ。後ろにやはり迷彩塗装のトラックの隊列が続いていた。オーストラリア軍の輸送車だった。

 続いて曙橋の北のほうからもサイレンが聞こえてきた。クラクションが混じっている。元防衛省の通用門があるのかもしれない。ほどなく曙橋の上を、隊列を作った装甲車が十両以上も通過していった。こちらはどこの軍のものか判別できなかった。どうであれ、緊急に戦闘部隊が出動する事態が勃発したのだろう。

 信也は訊いた。

「よくあるのか?」

「いいや。こんなに輸送車や装甲車を見るのは久しぶりだ」

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