*お二人の対談内容をもとに編集・再構成を加えてあります。

「父親/母親らしさ」の規範から降りる

河野 まずは本書(中真生『生殖する人間の哲学 「母性」と血縁を問い直す』〔勁草書房〕)を書かれた経緯をお聞かせください。

 過去に書いた論文を集めて、練り直しました。一番古い論文は10年くらい前、子どもが生まれた後のものですね。そういう生活環境の変化によって、生殖という観点から哲学ができないかと考え始めました。人間を考える時に、これまであまり着眼点にならなかった「生殖」から人間を見たら、どんなことが言えるかというのがきっかけの一つ。もう一つは、母はこういうものだという思い込みを再考したいという思いがありました。とりわけ、子どもを産むことは特別なのかということを考え直したかったのです。出産よりも、その後の育児のほうが長いわけですから、母親と父親は本質的に違うものではないのではないかという点を考えたいと思いました。

河野 確かに育児のほうが長いと考えると、母親と父親は分けられないというお考えは頷けます。

 キャリア形成のクリティカルな段階に妊娠、出産が来てしまうという女性に固有の問題があるとともに、男性でも育児にコミットすればするほどキャリアとの両立には悩まざるをえない側面があります。この葛藤は男女を問わず共有できる部分だろうと思います。

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