ゼレンスキー大統領の「飛行禁止区域」要請は切実である一方、外交的駆け引きでもある (C)AFP=時事

 ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に対して「No Fly Zone」(以下「NFZ」と表記する=なお日本では一般に「飛行禁止区域」と呼ばれているが、直訳としては「無飛行地域」)の設定を求め、NATOがそれを拒絶していることがニュースになっている。

 ウクライナは、航空兵力で劣るがゆえに継続的なロシア軍の空爆を受けている。もしNATOが空の安全を保障してくれるのであれば、ウクライナ軍は陸上兵力の撃退に専心できる。

 だがこれは、NATOとしては飲めない要請である。なぜならロシア軍とNATOが直接的な交戦状態に入ることが予測され、核保有国同士が直接対決する危険が高まるからだ。

 それにしても、そもそもNFZとは何か。日本では「飛行禁止区域」として語られているが、本当に「禁止」なのか。この問いに答えるため、本稿ではNFZが使われてきた歴史を簡単に振り返る。その後、現在のウクライナの状況にNFZをあてはめることの意味について考えてみる。

初設定のイラクは成功裡に

 NFZは法律用語ではないため、必ずしも定まった定義があるとは言えない。ただこの概念は、歴史的な経緯で使われるようになってきた。

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