*浜由樹子氏の講義をもとに編集・再構成を加えてあります。

吉川 ロシア・ウクライナ戦争については、どのような言葉や思想が現実に作動して、なぜ悲惨なことが起きているのかを、中長期的な歴史や文化の視点からも考える必要があります。この戦争の思想的背景にあるユーラシア主義について、国際政治・ロシア研究がご専門の浜由樹子・静岡県立大准教授にお話を伺います。

 まず前提として、ここでは1920年代から30年代に出てきた原型のほうのユーラシア主義を「古典的ユーラシア主義」と呼び、1990年代にロシア国内で再発見された、原型とは少し違う形でリバイバルされたものを「ネオ・ユーラシア主義」と呼んで区別します。

 古典的ユーラシア主義の歴史的背景から説明すると、ロシア十月革命とそれに伴う内戦を逃れた知識人たちが、1920年代のプラハ、ベルリン、パリなどヨーロッパ各地に大きなコミュニティを作ります。そこで彼らは「私たちは何なのか」「ロシアとはそもそも何なのか」を知的に模索し、言語、歴史、民俗学、地理などさまざまな分野で議論を繰り広げ、場合によっては政治的な色合いを帯びた活動に結びつくようなこともありました。ユーラシア主義というのは、そのような問いへの答えであり、「私たちはヨーロッパそのものではない」という意識です。これは亡命先で社会に同化する事が叶わなかった彼らの、個人的な経験の帰結でもあります。

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