安倍元首相銃撃事件とこれからの保守政治

執筆者:五百旗頭 薫2022年7月20日
保守に固執するようでは継承にならない。そして現実主義の政治家が戦略的に保守層に接近している場合は……[故安倍晋三元首相に弔意を示すため、東京・永田町の自民党本部に献花に訪れた人たち=7月15日午後](C)時事

 安倍晋三元首相への銃撃は残忍な愚行であり、阻止できなかったことは返す返すも残念である。この事件ですぐに大きく政治が動くような予感を私は持っていない。しかし、それとは別に不吉さと無力感を覚える。その正体を確かめたくて、この文章を書いている。

 なぜ不吉なのか。実力ある保守政治家が暗殺されると政治が漂流するというのが、日本史の経験則かもしれないからだ。

   これはある程度は人類一般の経験則だと私は思う。近現代の人類は、技術や知識の変化によって、ほぼ常に進歩への圧力を受けている。保守政治家も聡明であるほどに、いたずらに保守しようとするのではなく、保守と進歩の均衡を取ろうとする。そのためには繊細なバランス感覚と強い指導力が必要である。両者を兼ね備えたリーダーは稀有で、失われると替えがきかない。均衡させられ、あるいは封印されていた様々な潮流が解き放たれ、政治は漂流しはじめる。

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