巨大な陣容の中国人民解放軍(写真)だが、「智能化戦争」=「認知戦」戦略を積極的に導入しようとしている (C)AFP=時事

 ソーシャルメディア、人工知能(AI)、神経科学などの発達に伴い、人間の脳の「認知」に影響を与え、相手の「意志」に影響を及ぼすことにより、戦略的に有利な環境を作り、あるいは戦うことなく相手を屈服させる「認知戦」と呼ばれる戦い方が注目されている。本年4月26日に自民党が発表した「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」においても「認知戦」や「認知領域」という用語が用いられるなど、戦争における人間の「認知」の領域は、各国において注目を集めている。中でも中国、ロシア、米国において急速な発展が見られる。

 本稿では、中国、ロシア及び米国における「認知戦」の考え方について分析するとともに、ロシア・ウクライナ戦争における「認知戦」の教訓を導き出し、その将来について分析する1

古くて新しい概念

 まず、中国、ロシア、米国が「認知戦」をどのように考えており、それがどのように発展してきたかについて分析を行う。中国は2019年に「智能化戦争」2という新しい戦略を発表したが、この戦略の焦点は人間の「認知」であるとされている3。ロシアの「ハイブリッド戦争」4も、非軍事手段と軍事力を併用して戦う思想であり、非軍事手段の中には「認知戦」に相当する考え方が含まれる。米軍が2012年に発表した「情報作戦」5も、物理及び情報の次元に加え、人間の「認知」の次元に影響を及ぼすことを目的としている。

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